設備保全とは|種類・KPI・AI予知保全の完全ガイド
設備保全とは|種類・KPI・AI予知保全の完全ガイド
設備保全とは|種類・KPI・AI予知保全の完全ガイド
この記事でわかること
設備保全とは、機械や設備を使える状態に維持し、故障による生産停止を防ぐ活動全般です。保全方式は大きく事後保全・予防保全・予知保全に分かれ、予防保全はさらにTBM(時間基準)とCBM(状態基準)に分かれます。すべての設備を予知保全にするのは非現実的で、設備の重要度に応じて方式を割り当てるのが基本です。効果を測る指標はMTBF・MTTR・OEEが中心で、AIが効くのはセンサーデータが取れる予知保全の領域です。この記事では用語・種類・KPI・計画の立て方・AIの使いどころを順に整理します。
設備保全は、製造業の安定稼働を支える基盤業務です。しかし「予知保全」「TPM」「MTBF」といった用語が入り混じり、自社が何から手をつけるべきか整理しづらい領域でもあります。この記事では、保全の全体像を体系立てて示したうえで、設備ごとに戦略を割り当てる考え方と、AIを当てる順番までを一気通貫で整理します。保全の基礎をより簡潔に押さえたい場合は保全の基本も参照してください。
設備保全とは?目的と「保全」「保守」の違い
設備保全とは、生産設備を正常に稼働できる状態に保ち、故障や劣化による生産停止・品質不良・安全リスクを抑える活動の総称です。目的は3つに整理できます。第一に突発故障を減らして生産計画どおりに設備を動かすこと、第二に設備を長寿命化してライフサイクルコストを下げること、第三に故障に起因する災害や品質不良を防ぐことです。
「保全」と「保守」はほぼ同義で使われますが、ニュアンスに違いがあります。保守は設備を正常な状態に維持する日常的な維持管理を指すのに対し、保全は故障を未然に防ぐ活動から修理・改良までを含む、より広い概念として使われます。設備保全は「壊れたら直す」だけでなく、「壊れないように設計・計画する」ところまでを射程に含みます。
設備保全にはどんな種類がある?
設備保全は、故障の前に手を打つか後に手を打つかで、大きく事後保全・予防保全・予知保全の3つに分かれます。予防保全はさらにTBMとCBMに分かれ、加えて設備そのものを改善する改良保全・保全予防という考え方があります。まず全体像を表で押さえます。
| 保全方式 | 略称 | タイミング | 特徴 | 向いている設備 |
|---|---|---|---|---|
| 事後保全 | BM | 故障してから修理 | 費用は事前ゼロ、停止リスク大 | 予備がある・停止影響が小さい設備 |
| 予防保全(時間基準) | TBM | 一定周期で点検・交換 | 運用が習慣化しやすい、過剰保全になりやすい | 標準的な設備 |
| 予防保全(状態基準) | CBM | 劣化の兆候を捉えて実施 | 過剰保全を抑えられる、計測の仕組みが要る | 状態が測れる主要設備 |
| 予知保全 | PdM | 故障を予測した時のみ | 停止を最小化、初期投資が大きい | 重要・停止コスト大の設備 |
事後保全(BM)と予防保全(PM)
事後保全(Breakdown Maintenance)は、故障・不具合が起きてから修理する方式です。事前コストがかからない一方、突発停止の損失や修理待ちのリスクを負います。予備品があり、止まっても全体への影響が小さい設備には合理的な選択になります。
予防保全(Preventive Maintenance)は、あらかじめ立てた計画に沿って点検・部品交換を行い、故障を未然に防ぐ方式です。予防保全はさらに2つに分かれます。TBM(Time Based Maintenance、時間基準保全)は稼働時間やカレンダー周期で保全を行う方式で、運用が定着しやすい反面、まだ使える部品まで交換して過剰保全になりやすいという弱点があります。CBM(Condition Based Maintenance、状態基準保全)は振動・温度・電流・油の状態などを監視し、劣化の兆候を捉えた時点で保全する方式で、保全頻度とコストを抑えやすくなります。事後保全と予防保全の使い分けは予防保全と事後保全の使い分けで詳しく扱っています。
予知保全(PdM)と改良保全・保全予防
予知保全(Predictive Maintenance)は、CBMをさらに進め、センサーデータの傾向から「あと何時間・何日で故障するか」を予測し、故障の手前で計画停止する方式です。CBMが「今の状態」を基準にするのに対し、予知保全は「将来の故障時期」を予測する点が違いです。詳細は予知保全の仕組みと導入を参照してください。
このほか、故障しにくいように設備そのものを改善する改良保全(CM)と、設計・調達段階から保全しやすい設備を選ぶ保全予防(MP)があります。日々の点検で設備の状態を把握する技能は、こうした方式を支える土台です。現場の技能面は機械保全の基礎と技能継承で補足しています。
TPMとは?全員参加の生産保全
TPM(Total Productive Maintenance、全員参加の生産保全)は、保全部門だけでなく現場のオペレーターを含めた全員で設備を守る活動体系です。日本プラントメンテナンス協会が体系化し、生産効率を最大化する枠組みとして製造業に広く普及しています(出典:日本プラントメンテナンス協会「TPMとは」)。
TPMは一般に8本柱と呼ばれる活動で構成され、個別改善・自主保全・計画保全・品質保全・教育訓練・安全衛生環境などが含まれます。なかでも中小製造業がまず取り入れやすいのが自主保全です。オペレーター自身が「清掃・点検・給油」を日常的に行い、異常の早期発見と設備への理解を高める活動で、専任の保全人員が限られる現場でも回せます。計画保全は保全部門が劣化を計画的に抑える活動で、自主保全と役割分担しながら進めるのが定石です。
保全計画はどう立てる?設備の重要度で戦略を割り当てる
保全でつまずく典型は、「工場全体をどの方式にするか」という粒度で考えてしまうことです。方式は工場単位ではなく設備単位で決めます。すべての設備を予知保全にするのは費用対効果が合わず、逆にすべてを事後保全にすれば重要設備の突発停止で生産が止まります。設備ごとに重要度を見極め、方式を割り当てるのが保全計画の骨格です。
割り当ての判断軸は4つです。設備停止コスト(1時間止まると損失いくらか)、故障頻度(過去の故障履歴)、修理難易度(部品の調達期間・復旧工数)、代替手段(別設備で肩代わりできるか)です。この4軸で設備を分類すると、重要度の高い設備ほど予知・CBMへ、低い設備は事後保全へ、という配分が見えてきます。
ここで有効なのが、どの工程・設備が生産全体の律速になっているかという視点です。工場のスループットは最も能力の低い工程(ボトルネック)で決まります。したがって保全の投資も、止まると生産全体が止まるボトルネック設備に厚く配分するのが、経営数字に効く配分になります。余力のある工程の設備を手厚く守っても、全体の産出は変わりません。この「どこが律速か」を起点にする考え方は工程管理の基本とも地続きです。保全計画は、設備台帳の重要度評価とKPIの現状値をそろえたうえで、方式・周期・担当・予備品在庫まで落とし込みます。
設備保全のKPIは何を見る?
保全の良し悪しは感覚では管理できません。効果を測る代表的な指標はMTBF・MTTR・OEEの3つです。
| KPI | 読み方 | 意味 | 見方 |
|---|---|---|---|
| MTBF | 平均故障間隔 | 故障から次の故障までの平均稼働時間 | 長いほど安定稼働 |
| MTTR | 平均修復時間 | 故障から復旧までの平均時間 | 短いほど復旧が速い |
| OEE | 設備総合効率 | 時間稼働率×性能稼働率×良品率 | 高いほどロスが少ない |
OEE(Overall Equipment Effectiveness)は、時間稼働率・性能稼働率・良品率の3つを掛け合わせて算出します。たとえばOEEが60%なら、その設備の潜在能力の40%が停止・速度低下・不良のいずれかで失われていることを意味します。OEEの内訳と改善の考え方はOEE(設備総合効率)と稼働率で詳しく扱います。
これらが測れていない状態でセンサーを設置しても、改善の前後を比較できません。保全KPIを初めて置く場合は、突発停止の件数・時間、計画保全の実施率、設備別の保全費といった取りやすい指標から始めるのが現実的です(一例)。「何のために測るか」が決まらない計測投資は、コスト先行で効果が見えないまま終わりがちです。KPI設計を先に済ませることで、後述のAI導入で「どのデータを・どの粒度で・どの設備から取るか」も自ずと決まります。
AI・IoTで予知保全はどこまでできる?
AIが保全で効くのは、センサーデータが取れる予知保全の領域です。理由は3つあります。第一に、温度・振動・電流・音など複数センサーを同時に監視して統合判断できること。第二に、人が見落とす微弱な異常パターンを学習して検知できること。第三に、24時間止まらず監視できることです。これにより、故障の数日から数週間前に予兆を捉え、計画停止に切り替えられます(参考:J-STAGE「予知保全のための機械学習」(SCIE))。予知保全はこうしたデータ分析技術と結びつく領域で、AI・機械学習の基礎は製造業のAI・機械学習ガイドで補足しています。
予知保全のAI実装は、大きく3アプローチに分かれます。
異常検知
正常データから逸脱を検出
- 必要データ正常状態のデータ中心
- 開始しやすさ故障事例が少なくても可
残存寿命予測(RUL)
あと何時間で故障かを予測
- 必要データ過去の故障データが必要
- 開始しやすさデータ蓄積が前提
物理モデル併用
摩耗・温度の物理モデル+AI
- 必要データ設計知見とデータの両方
- 開始しやすさ精度は高いが設計工数大
故障事例が少ない中小製造業がまず取り組みやすいのは、手法1の異常検知です。正常時のデータだけで学習を始められるためです。
ここで外せない前提が、AIの成果はプロンプトよりもデータで決まるという点です。センサーの数値だけでなく、「この音が出たら軸受を疑う」「この振動が続いたら早めに止める」といったベテランの判断は、これまで個人の頭の中にしかない暗黙知でした。当社が支援した製造現場では、設備故障対応でベテランに属人化していた判断知識をAIで構造化し、若手がいつでも質問できる状態に整えた事例があります。別の現場では、過去の対応・案件データを検索できるようにした結果、類似事例を探す時間が約90%削減され、故障時の初動が速くなりました。予兆をつかむセンサー分析と、対応判断を支える暗黙知のデータ化を両輪で進めると、AIは「検知して終わり」ではなく現場の意思決定まで支える資産になります。
中小製造業が設備保全でつまずく3つの罠
保全のAI・IoT化でよく起きる失敗を3つ挙げます。
第一は、すべての設備にセンサーを付けることです。全設備をIoT化すると投資が膨らみ、データ管理も破綻します。重要設備に絞ることが、投資対効果を確保する前提です。
第二は、AIを入れた段階で満足してしまうことです。モデル構築はゴールに見えますが、アラートを誰が見て、誰が判断し、誰が設備を止めるかという運用フローまで設計しないと、実証実験(PoC)で止まります。検知から是正・再発防止まで回し続ける仕組みが要ります。
第三は、既存の保全員の技能を軽視することです。前段のとおり、ベテランの暗黙知がAIに移し切れないと、若手が判断できず現場が回りません。ベテランへのヒアリングを並行し、その知見を学習データや判断ルールに組み込む設計が、AI導入を組織の能力として定着させる条件になります。
現実的な導入は、いきなり予知保全に飛ばず、土台から順に積み上げます。
KPI整備
MTBF/MTTR/OEEを測れる状態にする
予防保全の強化
計画保全と自主保全を仕組み化
重要設備で予知保全PoC
ボトルネック設備で効果検証
対象を広げて展開
効果の出た設備へ横展開
KPI整備
MTBF/MTTR/OEEを測れる状態にする
予防保全の強化
計画保全と自主保全を仕組み化
重要設備で予知保全PoC
ボトルネック設備で効果検証
対象を広げて展開
効果の出た設備へ横展開
Phase 3に飛ぶ前にPhase 1〜2を固めることが、PoC倒れを避ける近道です。予知保全のROIは、計画外停止の削減時間×1時間あたり粗利、予備部品の在庫圧縮、保全工数の削減、の3要素を合算して見積もります。重要設備で初年度から2年で回収できる見通しが立つなら、投資対効果ありと判断できます。
よくある質問
Q1. 設備保全と保守の違いは何ですか
保守は設備を正常な状態に維持する日常的な維持管理を指し、保全は故障を未然に防ぐ活動から修理・改良までを含む、より広い概念です。実務ではほぼ同義で使われますが、保全のほうが射程が広いと整理すると分かりやすくなります。
Q2. 予防保全と予知保全はどう違いますか
予防保全は一定周期や状態基準で計画的に手を打つ方式です。予知保全はセンサーデータから将来の故障時期を予測し、故障の直前に計画停止する方式です。予知保全は予防保全のなかのCBMをさらに進め、「故障時期の予測」まで踏み込んだものと位置づけられます。
Q3. すべての設備を予知保全にすべきですか
非現実的です。予知保全は初期投資が大きいため、停止コストが大きい重要設備・ボトルネック設備に絞るのが基本です。それ以外は予防保全や事後保全と組み合わせ、設備ごとに方式を割り当てます。
Q4. 保全のKPIは何から測ればよいですか
まずMTBF(平均故障間隔)・MTTR(平均修復時間)・OEE(設備総合効率)が基本です。これらが未整備なら、突発停止の件数・時間、計画保全の実施率、設備別の保全費といった取りやすい指標から始めるのが現実的です。
Q5. 古い設備にも予知保全は適用できますか
後付けセンサーで対応できる場合があります。ただし設備側にデジタル出力がないと後付けの工数が大きくなるため、ROIを慎重に見積もる必要があります。まずはボトルネックかつ停止コストの大きい設備から検討するのが定石です。
Q6. AI予知保全の投資回収はどう考えますか
計画外停止の削減時間×1時間あたり粗利、予備部品の在庫圧縮、保全工数の削減、の3要素を合算します。重要設備で初年度から2年で回収できる見通しが立てば、投資対効果ありと判断できます。
Q7. 保全人員が少ない中小企業は何から始めればよいですか
自主保全(オペレーターによる清掃・点検・給油)でKPIを取れる状態を作り、重要設備を絞り込むところから始めます。土台を整えたうえで、ボトルネック設備の予知保全をPoCで検証する順序が現実的です。
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主な引用元
保全方式の割り当てやKPI整備、予知保全のPoC設計で迷う部分があれば、外部の立場から一緒に整理します。Delight Flowは製造現場のAI活用に特化した東大発のスタートアップです。自社の設備構成に当てはめて考えたい場合は、初回相談(無料)でお話を伺います。

執筆者
村田 凌
株式会社Delight Flow 代表取締役CEO
外資系コンサルティングファームにて金融会社のサイバーセキュリティ戦略構築支援に従事した後、東京大学にてAIの研究に取り組む。現在は工学系研究科博士課程に在籍。国際論文誌、学会誌での受賞歴を持つ。
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