保全の基本|事後・予防・予知とTPMの現場運用
保全の基本|事後・予防・予知とTPMの現場運用
この記事を読むとわかること
保全は設備を使える状態に維持する活動全般で、事後・予防・予知の3戦略を組み合わせて運用します。TPMは全員参加の生産保全として体系化されており、特に自主保全の考え方が中小製造業でも活用できます。保全KPIはMTBF・MTTR・稼働率の3つが基本です。保全戦略は工場全体でなく設備別に決めるべきで、3戦略を設備ポートフォリオとして組み合わせるのがコスト最適です。
保全の3戦略と適合する設備
保全とは、設備を「使える状態」に維持するための活動全般です。具体的には日常・定期の点検、給油・調整、部品交換、修理、異常対応といった業務を含みます。保全がうまくいけば計画外停止が減り、生産が安定します。経済産業省「2025年版 ものづくり白書」でも、設備保全は中小製造業の重要課題として扱われています。
保全には3つの戦略があります。事後保全(BM)は故障後に修理する戦略で、予備品や非重要設備に向きます。予防保全(PM)は定期点検・計画交換を行う戦略で、標準設備に向きます。予知保全(PdM)は故障予兆を検知して計画停止する戦略で、重要設備に向きます。詳細は製造業の設備保全をAIで考えるを参照してください。
3戦略は対立するものではなく、設備の重要度・特性で使い分けるのが基本です。「すべて予知保全」が理想に見えますが、コスト的にも実用的にも非現実的です。
TPMと自主保全の役割
TPM(Total Productive Maintenance、全員参加の生産保全)は、保全担当だけでなく全社員が関わる保全活動です。TPMには8本柱があり、個別改善、自主保全、計画保全、教育訓練、初期管理、品質保全、事務間接、安全衛生環境という構成になっています。
特に「自主保全」は中小製造業でも取り入れやすい考え方です。現場オペレーターが日常点検・小修理を担当することで、保全担当の負担を軽減し、設備への愛着・知識を高める仕組みになります。フルTPMの導入は中小企業には重いことが多いため、自主保全の概念だけを切り出して取り入れる軽量版のアプローチが現実解です。
保全3大KPIをまず計測する
保全活動の質を測る代表的KPIは3つです。
MTBF
Mean Time Between Failures
- 意味平均故障間隔
- 改善方向長くする
MTTR
Mean Time To Repair
- 意味平均修理時間
- 改善方向短くする
設備稼働率
Availability
- 意味実稼働 / 計画稼働
- 目標85%以上
これらが計測できていないと、保全活動の改善が見えません。多くの中小製造業ではMTBFとMTTRが正確に取れていないことが、保全DXの出発点でつまずく最大の理由です。まず月次でこれらを計測する仕組みを作ることが、保全戦略を考える前提条件になります。
設備別ポートフォリオ戦略
「保全は予防か予知か」と二者択一で議論されがちですが、当社の整理では保全戦略は工場全体ではなく設備別に決めるべきです。
具体的には、ボトルネック設備は予知保全(止まるとライン全停止するため)、標準ライン設備は予防保全(計画的な点検で十分)、予備設備・補助設備は事後保全(故障時に対応で問題なし)、安全関連設備は厳格な予防保全(規制対応)、というように設備の特性に応じた戦略を当てはめます。3戦略を設備ポートフォリオとして組み合わせるのが、コスト最適化のポイントです。
設備分類はABC分析の考え方を応用すると整理しやすくなります。停止コスト×故障頻度で設備を3〜4区分し、それぞれに最適な保全戦略を割り当てる、という設計が実務的です。
中小製造業向け4ステップDX
中小製造業向けの段階アプローチを整理します。
保全記録の整備
Excelで故障・点検履歴を蓄積
KPI見える化
MTBF/MTTR/稼働率の月次集計
予防保全強化
計画点検のExcel・現場帳票SaaS運用
重要設備の予知保全
PoCで効果検証
保全記録の整備
Excelで故障・点検履歴を蓄積
KPI見える化
MTBF/MTTR/稼働率の月次集計
予防保全強化
計画点検のExcel・現場帳票SaaS運用
重要設備の予知保全
PoCで効果検証
「いきなり予知保全」ではなく、Step 1〜3の土台があってこそStep 4が成功します。Step 1〜2は地味な作業ですが、これを飛ばすとStep 4のAI予知保全は確実に失敗します。
保全活動にAIを使う主要領域としては、振動・温度・電流の平常状態から逸脱を検知する異常検知、過去データから残存寿命を予測する故障予測、設備停止の最適タイミングを数理計算する保全計画最適化、保全レポートをNLPで分類する作業記録の分析、といった領域が挙げられます。日本機械学会論文集やJ-STAGE「予知保全のための機械学習」に研究蓄積があります。
よくある質問
Q1. 保全と保守は同じか
ほぼ同義です。保全は故障予防+修理、保守は維持管理+修理という整理ですが、実務上区別する意味は薄いと考えています。
Q2. 保全担当者のスキルアップは何が大事か
資格取得、データ分析の基礎(Excel・KPI集計)、AI/IoTの基礎知識、の3点を順序立てて身につけるのが王道です。
Q3. 全設備の予知保全は無理だが、優先順位の付け方は
ボトルネック設備、停止コスト大きい設備、故障頻度高い設備、の順で優先するのが定石です。3〜5台に絞ってPoCを開始するのが現実解です。
主な引用元
公益社団法人 日本プラントメンテナンス協会(JIPM)、日本機械学会、経済産業省「2025年版ものづくり白書」。
Delight Flowでは、保全戦略の設計、KPI整備、予知保全AI実装の伴走を行っています。無料診断実施中です。お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。

執筆者
村田 凌
株式会社Delight Flow 代表取締役CEO
外資系コンサルティングファームにて金融会社のサイバーセキュリティ戦略構築支援に従事した後、東京大学にてAIの研究に取り組む。現在は工学系研究科博士課程に在籍。国際論文誌、学会誌での受賞歴を多数持つ。
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