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属人化解消にAIが効くケース・効かないケースの見分け方|製造業向け

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属人化解消にAIが効くケース・効かないケースの見分け方|製造業向け

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この記事の要点

  • 「AIを入れれば属人化は解消する」という主張は半分しか正しくない。効くケースと効かないケースがある
  • 属人化には2種類あり、どちらに当てはまるかを見極めずにAIを入れると、遠回りになる
  • この記事では、原因・見極め方・進め方の順に整理する

著者: 村田 凌(東京大学工学系研究科博士課程在籍 / 株式会社Delight Flow 代表取締役CEO)

「特定の人しか分からない業務が多く、その人が休むと止まってしまう」——多くの製造現場が抱える悩みです。この解決策として「AIを入れれば属人化は解消する」という主張をよく見かけます。しかし、この主張はどのケースにも当てはまるわけではありません。知りたいのは「自社の属人化は、AIで解消できるのか」のはずです。

結論から言うと、属人化には2つの種類があり、どちらに当てはまるかで結果がまったく変わります。この記事では、属人化が起きる背景、2種類の見分け方、実際の進め方を順に整理します。

属人化が起きる背景

厚生労働省・経済産業省・文部科学省による2026年版ものづくり白書では、製造業の人材育成上の問題点として「指導する人材が不足している」と答えた事業所が**62.8%**で最多となっています(厚生労働省「能力開発基本調査」2025年6月調査)。指導役が足りないまま業務を任せると、教える側も教わる側も、結局は各自の経験に頼るしかなくなり、属人化が進みます。

一方で、技能継承の取組状況を見ると、「継承すべき技能の見える化(テキスト化・マニュアル化・デジタル化)」に取り組んでいる企業は**31.2%**です(JILPT「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」2026年5月)。最も多い取組は「再雇用や勤務延長で高年齢の従業員に継続して勤務してもらう」(54.8%)で、見える化への取組はそれに次ぐ位置づけにとどまります。「特に取組を行っていない」企業も15.9%あり、その割合は企業規模が小さいほど高くなっています。つまり多くの会社が、人に頼る形で技能継承を進めようとしており、暗黙知そのものを構造化する取組はまだ主流ではないということです。

放置すると影響が広がるのは、次のような点です。

  • 担当者の不在時に業務が止まる:休暇・退職・異動のたびに、対応できる人がいなくなる
  • 対応の質にばらつきが出る:同じ業務でも、担当者によって判断や仕上がりが変わる
  • 新人教育に時間がかかる:マニュアルがなく、都度ベテランに聞くしかないため、独り立ちまでの期間が延びる
  • 退職時に知識がまるごと失われる:引き継ぎが口頭・短期間で行われ、細部が抜け落ちる

属人化には何種類あるのか

属人化と一括りに語られますが、原因は大きく2つに分かれます。

① 業務フローが整理されていないだけのケース

手順そのものが文書化されておらず、担当者の頭の中にしか存在しない状態です。この場合、業務フローを書き出して手順化するだけで解消することが多く、AIを使う必要すらありません。ここに気づかずAIを導入すると、整理されていない手順をAIに丸投げする形になり、出力が安定せず、かえって現場が混乱します。これはAI以前の問題である可能性を、先に確認しておく価値があります。手順化と合わせて、複数人が同じ業務をこなせるようにする多能工化・ジョブローテーションを進めると、AIを使わなくても属人化が再発しにくくなります。

② 経験・勘に基づく暗黙知が構造化されていないケース

設備の異常対応や、微妙な調整の勘所など、文書化しようにも本人の経験に強く依存している業務です。このケースは、業務フローを書き出すだけでは解消しません。ベテランの判断そのものをデータとして蓄積し、誰でも参照できる形にする必要があり、ここで初めてAIが効いてきます。

具体的には、ヒアリングやログで集めた「こういう状況では、こう判断する」という事例をAIに読み込ませておき、似た状況に直面した担当者が状況を入力すると、蓄積された過去の判断例の中から近いものを提示する、という使い方です。AIが自動で正解を出すのではなく、ベテランの判断例を検索しやすくするという役割です。事例が増えるほど、提示される候補の幅も広がります。

属人化解消の記事の多くは、この2つを区別せずに「AIを入れましょう」と勧めています。①のケースにAIを入れても効果は薄く、②のケースを手順書だけで解消しようとしても進みません。この記事で特定のツール名を挙げていないのも同じ理由からです。ツール選びは、自社がどちらのケースかを見極めたあとの話であり、見極める前にツールを選ぶと遠回りになります。

自社がどちらか、簡易チェック

次の3問のうち2問以上に当てはまれば、②寄りと判断してください。

  • その業務の手順を、担当者以外の人が文章だけで再現できるか(できない=②寄り)
  • 判断の決め手が「経験上の感覚」「長年の勘」と説明されることが多いか(多い=②寄り)
  • マニュアル化を試みたことがあるが、うまく言語化できなかった経験があるか(ある=②寄り)

②の場合、暗黙知をどう構造化するか

②に当てはまる場合、進め方は主に3つです。

  • ヒアリングによる言語化:ベテランに判断の分岐点を質問形式で聞き出し、「こういう状況ならこう判断する」という形に整理する。たとえば「いつもと違うと感じるのはどんな時か」「その場合、最初に何を確認するか」「経験の浅い人が同じ場面でよくやる誤りは何か」といった質問が、暗黙の判断基準を引き出す糸口になる
  • 判断ログの蓄積:日々の対応内容と結果を記録として残し、パターンを後から抽出する
  • 既存データの活用:設備のセンサーデータや検査記録など、すでに残っているデータと、その時の対応内容を突き合わせる

聞き出した判断基準を、どう整理するか

ヒアリングで判断基準を聞き出せても、聞いたままの文章の羅列では、AIに読み込ませても検索しにくく、人が見ても使いにくいままです。「状況→確認すること→対処」という**判断樹(決定木)**の形に整理すると、抜け漏れや矛盾に気づきやすくなります。

たとえば、設備の異常予兆に関するヒアリング内容は、次のように整理できます。

状況(気づいたこと)次に確認すること分かること・対処
いつもと違う音がする音の種類(甲高い/低い唸り/断続的)音の種類ごとに、疑うべき箇所が異なる
振動が大きくなった振動が出るタイミング(起動時/稼働中/停止時)タイミングによって原因の候補が絞れる
部品の摩耗が早い摩耗の位置・パターン摩耗の仕方から、負荷のかかり方の偏りが分かる

ポイントは、1つの状況に対して「次に何を確認すればよいか」を必ずセットで書き出すことです。「音がする→ベテランに聞く」で止まっていた判断が、「音がする→まず音の種類を確認する→種類ごとに次の一手が決まる」という形になり、経験の浅い人でも同じ手順をたどれるようになります。ヒアリングを重ねるたびに、この表に行を追加していくイメージです。

進捗をどう確認するか

構造化が進んでいるかどうかは、次のような指標で確認できます。

  • 言語化できた判断基準の数:ヒアリングを重ねるごとに、どれだけ「こういう状況ならこう判断する」という型が増えたか
  • 対応できる人数の変化:その業務に、ベテラン以外で対応できる人が何人に増えたか
  • 初動対応までの時間:問い合わせや異常発生から、一次対応に入るまでの時間が短縮したか

利用回数だけを見ていると、実際に対応力が上がっているかが見えにくくなります。上記のような指標を、着手前に一度記録しておくことをおすすめします。

実際に支援した例では、設備の異常対応が特定の担当者の経験に頼りきりで、その方が不在だと若手は判断できず対応が止まっていた現場がありました。ヒアリングで聞き出したのは、機械が故障する前に出る予兆(音の変化、振動、特定の部品の摩耗の仕方など)を、その担当者がどう察知し、どう対処してきたかという判断基準です。数回のヒアリングを重ねる中で、こうした予兆と対処の組み合わせが言語化でき、AIに読み込ませることで、若手が同じ予兆に気づいた際に過去の対処例を参照できる状態になりました。センサーデータの整備などに着手する前に、まずヒアリングから始めたことで、無駄な投資を避けられたケースです。

どの方法も、一度にすべての業務を対象にする必要はありません。影響が大きい業務から着手するほうが、効果を実感しやすくなります。

なお、費用感はどの方法を選ぶかで大きく変わります。3つの中では、ヒアリングによる言語化が最も着手しやすく、既存データの活用は保有データの整理状況次第、センサーデータの活用は新たな設備投資を伴う分、最も費用がかかりやすい傾向にあります。対象業務の複雑さによっても変わるため、自社の状況に応じた見積もりが必要です。

AI自体が新たな属人化を生むこともある

暗黙知をAIで構造化しても、そのAIの運用方法(何を読み込ませるか、どう検索させるか)を特定の担当者しか分からない状態になると、属人化の対象が「ベテランの勘」から「AIの運用」に移っただけになります。運用方法も手順として文書化し、複数人が扱える状態にしておくことが必要です。

「話したがらない」への向き合い方

暗黙知の構造化を進めようとすると、ベテラン本人が協力に消極的なことがあります。多くの場合、これは「自分の価値が失われるのでは」という不安が背景にあります。この場合、「あなたの判断を会社の資産として残す」という位置づけを先に共有し、負担の少ないヒアリング形式から始めることが有効です。無理に一度で聞き出そうとせず、複数回に分けて進めるほうが、結果的に協力を得やすくなります。

属人化解消の進め方

見極めを踏まえると、進め方は次の順番になります。

手順やること目的
① 棚卸し属人化している業務を一覧化し、①手順が未整理なだけか、②暗黙知に依存しているかを分類する対応方法を間違えないため
② 優先順位づけその業務が止まると、どれだけ他の工程に影響するかで優先度を決める効果の薄い業務から着手する遠回りを防ぐため
③ 手段を選ぶ①は業務フローの文書化・手順化、②はヒアリング・ログ・既存データによる構造化と、進め方を分ける手段を誤らないため
④ 定着を測る「その業務が誰でも対応できるようになったか」を、対応できる人数の変化で確認するやりっぱなしにしないため

①と②を混同したまま一律にAIを導入する会社が少なくありません。棚卸しと優先順位づけに時間をかけるほど、後の工程が早く進みます。

よくあるご質問(FAQ)

Q. 属人化解消のためにAIツールを導入しましたが、あまり変わりません。何が原因でしょうか。 A. 導入した業務が、実は①「手順が未整理なだけ」のケースだった可能性があります。まず該当業務の手順を書き出し、AIでなければ解消しないことなのかを確認してください。

Q. 属人化はどこから手をつければよいですか。全部の業務が属人化しています。 A. その業務が止まったときに、他の工程にどれだけ影響するかで優先順位をつけてください。影響の小さい業務から着手すると、効果を実感しにくくなります。

Q. 業務フローを整理するだけで、AIを使わずに済むこともありますか。 A. あります。手順が文書化されていないだけの属人化であれば、フローを書き出して共有するだけで解消することが多く、無理にAIを導入する必要はありません。

Q. ベテランが協力してくれません。どう進めればよいですか。 A. 「判断を奪う」ではなく「判断を会社の資産として残す」という位置づけを先に共有し、負担の少ない形から始めてください。一度にすべてを聞き出そうとしないことも大切です。

Q. 暗黙知の構造化には、どのくらい費用がかかりますか。 A. 選ぶ方法(ヒアリング/ログ蓄積/既存データ活用)と対象業務の複雑さによって幅があります。まずは影響の大きい業務1つに絞って見積もることをおすすめします。


自社の属人化が①②どちらのケースか、またどこから着手すべきかを見極めるところから相談したい場合は、製造業特化AI顧問 のページもご覧ください。診断を含めて伴走します。

参考

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代表取締役 村田 凌

執筆者

村田 凌

株式会社Delight Flow 代表取締役CEO

外資系コンサルティングファームにて金融会社のサイバーセキュリティ戦略構築支援に従事した後、東京大学にてAIの研究に取り組む。現在は工学系研究科博士課程に在籍。国際論文誌、学会誌での受賞歴を持つ。

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